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金沢家庭裁判所 昭和51年(少)81号 決定

少年 D・T(昭三三・九・一七生)

主文

少年を中等少年院(短期処遇)に送致する。

理由

(事実)

少年は、昭和五〇年六月五日金沢家庭裁判所において窃盗保護事件により金沢保護観察所の保護観察に付され、その保護観察中、新らたに昭和五〇年一〇月ころ勤務先である○○カントリークラブの上司の机から所在の現金約四、〇〇〇円を持ち出し、あるいは、同年一二月二七日ころ鎮痛剤セデス等の薬物を多量に服用したうえ、正当な理由がないのに保護者の監督に服しないで所定の就業をせず、さらに昭和五一年一月二五日ころ所在のカミソリで左手首を切りつけて自殺まがいの自傷行為をするなど、別紙通告の理由記載のとおり、少年法三条一項三号に掲げる事由があるとして、所轄保護観察所の長から同年一月二六日犯罪者予防更生法四二条一項により当裁判所に通告されたものである。

そこで、関係記録並びに少年の当審判廷における供述によつて検討してみると、通告にかかる事実を総べてこれを認めることができる。

(少年の要保護性)

そこで、少年の要保護性について上記関係記録、証人○田○庸の供述、少年に関する鑑別結果通知書、家庭裁判所調査官の関係報告を総合して考えてみると、次のことが指摘される。すなわち、

(一)  少年の精神状況について、その知能はIQが九二で普通であるが、診断の面では、正常とは言いがたく、すなわち、狭義の精神障害は認められないが、性格面での片寄りが大きく、どちらかと言えば、準正常の部類に属すること。

(二)  少年に対する鑑別の結果、その総合所見でも、気分的に暗く、抑うつ的で、それでいて、他方爆発的な面があり、また、フェティズム的な性的思考上の負因をもつている。現に、少年は、幼いころから盗癖や弄火癖があつて、○○学園にも入れられ、一見温和なように見られるかと思えば、強情我がままで自分勝手のことをやり、ときには爆発的に暴力を振うことがある。少年が、強情で我がまま、それでいて孤独的であり、かげにまわつて他から婦人の下着を盗んで自ら慰めている点などは、少年に見られる強い問題点として指摘されること。

(三)  少年に対する保護観察中の所見でも明らかなごとく、保護者の正当な監督に服せず、家庭を離れて、ひとりでアパート暮しをし、自己の将来に対する職業選択にも場あたり的で、長続きせず、時として精神的に不安定となり、自傷行為に及ぶなど、少年に対し強い矯正教育の必要性が認められること。

以上のほか、少年の当審判廷における供述を勘案すると、少年に対し、もはや保護観察は妥当ではなく、主文に示した程度の保護処分の必要性が痛感される。

(適条)

少年法三条一項三号、二四条一項三号、少年院法二条三項、少年審判規則三七条一項。

(裁判官 向井哲次郎)

(別紙)

通告の理由

〈1〉 昭和五〇年一〇月頃勤務先(○○カントリークラブ)の上司の机の引出しから現金(四、〇〇〇円)を窃取また同タバコ自動販売機内から百円硬貨数枚ぬきとつた事実。

〈2〉 その他本人が単身でアパート暮しをしていた時、本人の小遣い等で購入できない分不相応な電機計算機、衣類、ライター等を所持しており、保護者はぬすんできたものでないかとおもうと述べている。

〈3〉 昭和五〇年一二月二七日鎮痛剤セデス等を多量に飲み精神的不安定な状態になる。

〈4〉 昭和五〇年一二月末より、不就業の状態となり(前職場を解雇され)、保護者は本人の希望を入れ、美容師の住込先をすすめるが、全く勤労意欲をみせず保護者の指導にも従わない。

〈5〉 昭和五一年一月二五日住込することに抵抗する意味か左手首をカミソリで切り自殺のまねごとをする。

以上の本人の行動からみて、このまま放置しておくと再犯に結びつく虞れがあり、すみやかに身柄を勾留する必要がある。

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